戦術コラム

前衛後衛同時強制MUMによる2-3Zone Attack

はじめに

香川が2/24の品川戦で見せた、2-3Zone Attackをまとめる。
前衛に対しての強制MUMと、後衛に対しての強制MUMを同時に行うアイデアが非常に興味深かった。
本記事は、まず強制MUMについて簡単に説明した後に、品川戦の事例紹介をする流れで進めていく。

今回のまとめのソースである、2/24の品川戦の実況考察はこちら。

強制MUMとは

強制MUMとは、ゾーンディフェンス(以下Zone)を攻める時に用いられる考え方の1つ。
そもそもMUMとは、Match Up Makingの略で、Offが優位性を発揮できるDefとのマッチアップを恣意的に作ることを指す。

このMUMは、マンツーマンディフェンスの場合は、基本的にスクリーンを利用してSwitchさせることで実現する。
ただ、Zoneの場合は、あるDefが守るエリアに、そのDefに対して優位性を発揮できるOffを配置することで、強制的にMUMを実現できる。

このことを個人的な造語で「強制MUM」と呼んでいる。

強制MUMはZoneの前衛に対しても、後衛に対しても作ることができる。

こちらは前衛に対する強制MUMの例。
Smallであるx1が守っているエリアに、Bigである4を配置することで、サイズのミスマッチを作っている。

ちなみに、このBigの4は、ただサイズがあるだけのプレイヤーでは務まらない。
3ptとドライブのスキルを備えた、「3ptラインで脅威になれる」Bigである必要がある。
香川にはランダル、ラベネルという、前衛との強制MUMに適任なプレイヤーが2人もいる。
ここが他のB3チームとの圧倒的な違い。
彼らの存在が戦術に彩りをもたらす。

一方、こちらは後衛に対する強制MUMの例。
後衛の中ではSmallであるx3が守っているエリアに、Bigである5を配置することで、サイズのミスマッチを作っている。

以上の理解を踏まえて、事例紹介に入っていく。

前衛後衛同時強制MUMの事例紹介と解説

2Q 10:00の場面。

1コマ目。
前衛ではx1に対して4で、後衛ではx3に対して5でそれぞれ強制MUMしている。
この時、x1が4を1人で守るのは無理があるため、後衛中央のx5がFTラインあたりまで出てきて、x1とx5の2人で協力して4を曖昧に守っている状態。

2コマ目。
右Wingでボールを持つ1は、いつでも5にPost Feedできる状態。
前衛同様に、x3が5を1人で守るのは無理があるため、後衛左のx4がサポートに来る。
しかしそのx4のサポートは、本来は自分が担当するべき左Cornerの3を捨てる行動。
x4の動きを認識した1は、4経由で左Cornerの3にパスを繋ぎ、ワイドオープンのコーナースリーを演出した。

4と5が前衛と後衛で同時に強制MUMすることで、4はx1とx5を、5はx3とx4を引きつけた。
その結果、簡単に3がワイドオープンになった、という場面だった。

2Q 8:10の場面。

1コマ目。
前衛では4がx2に対して、後衛では5がx3に対して強制MUMしている。
先程の場面同様に、後衛中央のx5はFTラインあたりまで出てきてx2のサポート。
また、左Wingの2は3ptシューターであるため、x1は2をマークし続けたい状況。

2コマ目。
4がドライブでx2とx5を引きつけて、左Cornerの3にキックアウト。
x3は5を守ることに精一杯であるため、クローズアウトに出られず。
x1もシューターである2をオープンにするわけにはいかないため、クローズアウトに出られず。
その結果、3のワイドオープンのコーナースリーが生まれた。

こちらも強制MUMの力で、4はx2とx5を引きつけ、5はx3のRotationを阻止した。
Defとしては、x5のマークをx4がx3からスムーズに引き継げていれば、x3は左Cornerの3にクローズアウトできたかもしれない。

2Q 7:35の場面。

1コマ目。
前衛では4がx1に対して、後衛では5がx3に対して強制MUMしている。
x5はいつも通り、FTラインあたりでx1のサポート。

今回面白いのは、x3の守る位置。
先程の場面では、x3は5とリングの間に立っていたが、今回は5と左Cornerの3の間に立っている。
これにより、先程はできなかった3へのクローズアウトを、今回はできるようにしている。

2コマ目。
x3が5と3の間に立って守るということは、5のマークが薄くなるということであるため、ここはx4のヘルプで補う。
これは先程Def側の解決策として書いたパターンの守り方で、これにより、3と5のマークの課題は完璧に解決してきた。
ただ、そうなると今度は右Cornerの1がワイドオープンになるのが、同時強制MUMの良いところ。
4が今回もx1とx5をしっかり引きつけて、ワイドオープンの1へと的確にキックアウトした。

もし、この場面でx4ではなくx5が5のヘルプに行っていた場合、何が起こっていただろうか。
この場合は、x4が1にクローズアウトできるため、今回のようなワイドオープンは生まれなくなる。
ただ、それによって、4とx1のミスマッチをサポートするDefが不在となり、今度は4のドライブでほぼ確実にチャンスが生まれる。

以上の3つの場面で見たように、前衛後衛同時強制MUMの配置を作ることで、Off主導の駆け引きを始めることができる。
特に3つ目の場面のOffの配置は完璧だった。

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